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20040505: 湿地帯の母

肌寒い曇り空の下、細い枯れ草に覆われた湿地帯の上の、ボロボロに腐りかけた木材で組まれた道を歩いていると、とても使い物になりそうもない母が設置されていた。高さ1.8メートル、鉄と葦の繊維を使った樹脂と小さな自給型内燃機関で出来た旧式の母だ。母はそれほど珍しいものではないが、ここまで古いもには出会ったことがない。まず使えないだろうと思ったのだが、試しに給血してみようかと思い、ひび割れた給血口に腕を入れてみた。ほんのりと暖かい。この母は生きているのだ。給血口の内部から軟らかいパイプが伸びてきて腕に吸い付くのが分かった。毛細血管が腕の皮膚まで届き血が吸い出されていく。この母は一回の使用料が高いようだ。いつまで吸っているんだと思ったが、給血中に腕を抜くのはよくないことぐらい知っている。ある種の母にはトラップが仕掛けられていて、給血の途中で腕を引き抜こうとすると、トゲのあるリングで締め付けたり、強烈な痒みを引き起こす薬品を注入されたりするのだ。300ccぐらい抜かれただろうか。やっと母は僕の腕を解放してくれた。一体この母は何を出してくれるのだろう。普通の母なら、腹の足しになるものや、ちょっと気の利いた漁のための仕掛を提供してくれるものだが、ここまで旧式な母が何を出すかなんて僕にはまったく想像がつかなかった。そもそもこんな母に給血しようと思ったのも、その好奇心に勝てなかったからだ。母の筐体のなかでガラガラと品物が攪拌される音がして、取り出し口に真鍮の球体が転がり出てきた。球体は二つに分割されていたがしっかりと閉められており鍵穴がついていた。どうやって開けるんだろう、と思っていると、取り出し口でチャリンという音がして鍵が出てきた。「忘れたのか?」と思ったが、そんなことはあるわけがない。母は決められたルーチンで動いているだけだ。僕は鍵をとって球体を開けてみた。鍵が折れるんじゃないかと思うぐらい固かったが、なんとか鍵は使えた。球体の中に入っていたのは小さな胎生鳥類の死骸だった。食えというのだろうか。それとも、もともとは生きていたのだろうか。僕はとてもウンザリした気持ちになり、球体ごとその死骸を湿地帯に放り投げた。すると丁度僕の投げたものが着地した地点から見たことがないぐらい大きな黒い鳥が飛び立った。そして羽音をたてながら僕の頭の上を飛んでいき、どんよりした曇り空の中に消えていった。ただの偶然だ。でも僕は、またここに来ることがあったら、もう一度この母を試してみようと思った。

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