きのう東京の飯田橋というところで忘年会があった。俺はバイトの夜勤明けで、その上一時間ぐらいしか寝ていなかったのだが、そのまま寝ないで出掛けていったのだ。お開きにしたのは何時ぐらいだったのだろう。10時とかそんなぐらいだったと思う。でもとにかく目を覚ますと中野という駅だった。しかも終電。中野というのは自分の家とは正反対の方向で、しかもかなり遠い。時間は午前1時30分ぐらいだった。どうすっか。困ったな。途中4回ぐらい乗換えをしていたような気がするのだがよく思い出せない。でも酔っ払いなので、まあ歩いて帰ればいっか、などと思ってしまったのだ。
ふらつく足取りで歩き始める。すると高円寺というところに着いた。あれ、これはひょっとして、と思い家に電話をかけてみた。「高円寺って家から遠い?」と聞くために。反対方向だといわれた。そんなバカなと思ってコンビニに入って地図を見てみると確かに遠ざかっている。なんてこった。でもやっぱり酔っ払いなので、まあいっかとなって、引き返した。今度は順調だ。大久保通り、ああ、知ってる、知ってる。この道まっすぐ行けば大丈夫だ。新大久保のコンビニで肉まんとあったかい生茶とウィスキーのポケットボトルを買う。肉まんはかつてないほどまずかったが、なんだか楽しくなってきた。気がつくとわけの分からない独り言をつぶやいたり、歌を歌ったりしていた。環七、新宿、飯田橋。やっと出発地点に戻ってきた。一時間おきぐらいに家に実況中継をしながら歩き続ける。御茶ノ水、秋葉原、浅草橋。鳥越神社の前でイチョウの葉っぱを拾う。きれいに黄色くなっている。口にくわえるとドカベンのイワキになった気分だ。隅田川。急に足が痛くなってきた。ふくらはぎが痛い。足首が痛い。ケツも痛い。足の付け根も痛い。歌が出てこなくなった。超寝不足で超運動不足の酔っ払いがやることじゃないなと思い始める。しかしここまできたら後には引けない。なんとしても歩いて家に帰るのだ。わけの分からない使命感が湧き上がる。葉っぱの茎が噛まれてだんだん短くなっていく。錦糸町、亀井戸、平井。ああ、荒川だ。俺が育ったところだ。橋の上で腰を下ろし電話をかける。ウィスキーがまずい。ちょっと休んだだけなのに、体がもの凄く重くなる。空には満月。雲が流れ、気持ち空が明るくなってきたような気がする。電車が走っている。おお、ひょっとしてあれは始発電車ではないか。つうことは俺には計画を中断して電車に乗るという選択肢も生まれたわけだが、そんなことをしちゃいけない。つうかありえない。俺は中野から歩いて帰るという運命の星に導かれてここまできたのだ。何が起ころうが歩いて帰らねばならないのだ。新小岩、小岩、この間が長い。道も単調だ。朝焼けが始まる。我慢できなくなった俺は再びコンビニに入る。またあったかい生茶と「からあげ君レッド」を買う。コンビにって素晴らしい。空がすっかり明るくなると江戸川だった。ここまでくればあと少しだ。時刻は7時。川面が紫色から水色にグラデーションを描く空を映し出してきれいだ。東は低い丘を背にしているので太陽は見えなかったが、気がつくと対岸の家々は朝日を浴びている。10分後には横になれる。そう思って里見公園の急な上り坂を登る。息子が通っていた保育園の前を通り、お寺の前を過ぎ雑木林を抜ける。家が見えた。玄関を開けると電話に付き合っていたチムリクがコタツの上に電話機を置いてうたた寝をしていた。お土産にずっとくわえていたイチョウの葉っぱをあげるとそのままコタツに入った。6時間は長かったな。でも面白かった。アホな一晩であった。


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