←石 記号化されたベビーフェイス→

20080813: 夏の夜

足音が聞こえる。足音だけが聞こえる。その足音の前をこおろぎが横切った。そしてこおろぎは消えた。闇の中に。

足音は近づいてくるように聞こえるのに、近づかない。でも足踏みをしているわけではない。足音がだんだん大きくなってくる。近づくことなく。

気がつくと、大きくなった足音に扇風機の回る音が混じっていた。扇風機はひーんという音で回っている。ひーーーーん。そしてざくざくという聞き取れないほどかすかなのに大きな足音。

それらはほとんど無音だ。おそらく足音が大きくなっているのは、近づいてくるからではなく、足が成長しているからなんだろう。成長し続ける足は何を養分にしているのか。空気か。膨らんでいるのか。葉脈を流れる水か。

エンジンも回りだす。エンジンが回れば扇風機は止まる。エンジンは空を飛ぶ。すれすれに。ぶるぶると震えながら。足音がエンジンに恋をする。恋をした足音はエンジンを包む。包まれたエンジンは回るエンジンであることを止め、膨らんでは萎み、萎んでは膨らむエンジンとなる。

いまや足音は空を飛ぶ。夏の夜の空を。

Trackbacks(0)

Trackbacks URL: /1085

Comment

Powered by Movable Type

Profile

Archive

Feeds