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20200403: LOVE-20

LOVE-20という新型ウィルスが発見されたのだは、つい一年ほど前のことである。当初、不審死を遂げる老人が急増し、その死因がウィルスによるものであることが判明するまでには数百人の犠牲を必要とした。なぜなら、その犠牲者たちにはウィルス感染にありがちな症状などが全く見られず、心の空白を訴える以外の変化が見られなかったからである。当然のことながら医師たちはこれを精神疾患の一種と判断し坑鬱剤などの薬剤投与をするにとどまった。
この疾患がウィルスによるものであることが判明したのは、著名な富豪の死がきっかけであった。その死に衝撃を受けた数人の富豪達がこの原因不明の疾患に巨額の資金を投じ、優秀な研究者たちに死因を突き止めさせたのである。そこで判明したウィルスの特徴は前代未聞のものであった。
人には周知の事ながらLOVE中枢と俗称されている器官があり、この器官は人間同士のコミュニケーションにおける成果物のうち、喜びや心配、贈与などを通して他者から照射されるエネルギーによって、人体に生成される粒子、つまりLOVE粒子が貯蔵される器官であり、かつては、それが機能しなくとも生存に関与しないとして不要な器官であるとされていたものである。
LOVE-20はこのLOVE中枢に直接働きかけ、LOVE中枢の機能不全を誘発することが判明したのである。その結果、罹患者は極度な神経症的不安、虚無感、孤独感を発症し、その後自律神経系が次第に崩壊し、やがては死に至る。また通常の精神疾患と異なり、その進行は一つの例外を除いて不可逆的であり、進行のスピードもわずか数週間で死に至ると言う極めて速いものであることも判明した。治癒の可能性は唯一つ、LOVE-20への唯一の抗体である他者からのLOVEを獲得することであった。

この研究結果が発表されるやいなや、世界中に衝撃が走った。発生時期から発表までに至った期間を考慮するならば、パンデミック寸前であることは確実であったからである。まず資産に余裕のある者たちは、LOVE-20を遮断できるシェルターに篭った。またある者はLOVEを獲得するために数兆円から数億円規模の現金の配布を行った(彼らは資産以外に自分が使える駒を持っていなかったのである)。

影響は富裕層や権力者には留まらなかった。老人たちは急に優しくなり、事あるごとに孫に小遣いをあげ、食事の準備を進んで申し出、ゴミ捨てをし、なんなら公共の道路を清掃し、布団に入れば自分の言動を毎日反芻してはLOVE粒子が減るような行いをしなかったかを反省するようになった。

しかしLOVE-20の狡猾さは予想をはるかに超えるものであった。尊敬や憧憬による照射は無効であったし、下心や射幸心を持つ者も容赦なく切り捨てた。それが自己の延命のためである限りは、LOVE粒子の生成が起きなかったからである。物流は止まり経済は停止したが、不思議と若者への影響は極めて少ないものであった。結果、世界の老人の70%、壮年の30%、若年の5%の尊い人命が失われることとなった。

そして現在、LOVE-20は今も根絶されていないが、今は誰もそれを恐れなくなった

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Comment(2)

素晴らしい比喩は人々に考えさせます。 待望のログがついに更新されました。 健康を祈っています。 (この時代に限って、海の向こうからの中国の祝福、あなたの健康を祈ります。)

ありがとうございます。私からも彼岸周医生さんの健康を祈ります。
世界は変化するでしょう。その変化が悪しき変化とならないことを願っています。

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