story

人は物語を求めている。それも自分のものだと思える物語を。重要なのは自分のものだと思えるということだ。

叱られたり、諭されたり、導いてもらったり、縛られたり、決め付けてもらったり、することが大好きなのだ。自分の物語であると思うことが出来さえすれば。そしてそのようにさえ思い込めれば人は自分の物語の中でとんでもない力を発揮する。あたかもスーパーサイヤ人になった悟空のように。

だから多くの人が自分の物語だと思い込めるものは、とんでもない利益と熱狂と強制力を生む。映画だろうがライブだろうが選挙だろうが小説だろうが宗教だろうが全部一緒だ。

ここに起きているのは、多くの人が自分と同じ物語の中に居てほしいという欲望だ。それは裏返せば、あなたの物語じゃないんじゃないの?という事になるんじゃないかと思うのだが、そうはいかない。それはおそらく、欲しかったものの本質が、自分の物語ではなく、自分の物語だと思えたものが多くの人々と共通であったということにあるからなんだろう。

つまり、よりわかりやすく言えば自分の物語など、どうでもいいのだ。重要なのは自分に都合よく引き寄せることの出来る共有感覚なのだ。もっと言ってしまえば寂しいのは嫌だということだ。さらに寂しい自分は生きている気がしないということだ。寂しい中では生きられないということだ。そんな中では力が発揮できないということだ。私にはスーパーサイヤ人になることが出来る資質が備わっているはずなのに、その資質が封じられていると誰もが感じているということだ。お願いだから私じゃない外側の誰かさん、私を開いてください、と言い続けているわけだ。フリーザ、ラブ。

分かり易いとはそういうことだ。何が分かり易いんだか知らないが。

081026.jpgルゼルブ号の発射にあたって、私は私が失うものを書き出した。
熟考の結果、書き出しには三日が費やされた。
リストは1723項目にも及んだ。
そしてそれらの項目には
私がこれまで抱え込んでいたほとんど全てが含まれていた。

だがもちろん、
私が失おうとしても失うことの出来ないものは残るのだ。
それ以外に必要なものなどあるものか。
私にはそう思えた。

おじいさんがリフトに乗って本を読んでいる。
現在の高度は400メートル。上りだ。
リフトの椅子はクッションが入っていてソファのようだ。
なんの本を読んでいるのかはわからない。
さっきから頬が緩んでいるので小説か何かだろう。

おじいさんのリフトはあとどれぐらい続いているのだろう。
おじいさんは終点まで本を読み続けるのだろうか。
それまでにお話が終わってしまったりしないだろうか。

おじいさんのリフトのスピードは
私のリフトより少し速かったので
それを確認することは出来なかった。
おじいさんは今あの雲の中だ。

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