PBBSで(右下の虫が入り口)あくびさんの絵に関する書き込みが面白かったのでここで返信します。以下インタビュー形式で(笑
あくび:
デジタルだと特に複製のしやすさとか、しにくさってのが作品の価値に関係なくなっていくのでしょうか。
サクバ:
本質的な価値は、デジタルかどうか、複製しやすいかどうかにかかわらず変わらないと思うので、市場的価値に関しての疑問だとします。
キネガワ堂のシェアピースのコラムでもこの辺について書いてますが、美術市場はむしろデジタルであっても複製を制限して価値を高めようとします。消費者はデジタルの特性を利用して市場価値を低くします(音楽データがいい例です)。また美術市場ではなく出版などのマスメディアでは複製を制限することはないけど、通常それは「作品」として流通させているわけではないという了解があるといえると思います。この図式からひとつ見えてくるのは、どこまでを作品とするのかということです。テレビに一秒間映った絵はその一秒間の間、作品として存在したのかと。極端に言えばそういうことです。
俺の答えはイエスです。発信側と受信側のコストバランスが多少変化したに過ぎない。そういう意味ではデジタルでなくてもあらゆるものが(たとえば写真に撮られるとかテレビに映るとか)いくらでも複製できるものとして存在しているといえなくもない。
ただしデジタルの特殊性はそれが「作品そのもの」であるということなわけで、これは言ってみればオリジナルが存在しない複製なわけです。全部が本物。しかも個人が大したコストをかけずにいくらでも増殖させられる。混乱の原因はここにある。でもこの一見複雑そうに見える関係も消費する側にとっての作品価値という観点から見れば、一気に単純化することも出来ます。要は楽しんだ分を支払えばいいわけですから。しかしデジタルという魔法の果実の美味しさに眼がくらんでいるうちは難しい。その単純なことが単純に感じられるようになるには相当時間がかかるだろうと思っているんです。
あくび:
作場さんなんかはデジタルで作品を作る際に、印刷してある程度のサイズの物質(?)になるのをを前提に製作されてるじゃないですか。
印刷するときってどういうことにこだわるんでしょうか。やはりディスプレイで見える画像(描いた画面上の画像)をどれだけ再現できているかなのでしょうか。
そうだとしたらその絵を人に見せる場合の最適距離っていうのは描いたディスプレイの画面上ということですか?
完成品というのは印刷されたものなのか、データなのかというのをいつも考え込んでしまうんです。
サクバ:
自分の場合、印刷を前提に絵を描いているという意識はいつもどこかにあります。とはいっても実際に描いているときにそれを気にしているわけではないです。気にするのは実際にプリントするときです。何度もやり直す。でも面白いのは、必ずしもモニタ上のものを再現しようとするわけではないということです。自分が選んだ紙とインクの特性の中で、もう一度自分の欲しいイメージを再構築して、そのイメージに近づくように調整します。そしてさらに面白いんですが、それをやっているとモニタで描いていたときもモニタに映っているイメージよりも、そのちょっと先を見ていたんだなってことに気づくんです。で、そのちょっと先ってのが、イメージを再構築する際に頼りにしている場所なんですね。だから逆にプリントされたものも、その頼りにしている場所から見たら、ちょっと手前なものなわけです。ということはつまり、モニタの画面とプリントはちょっと先のイメージから生み出された二つの結果であり、ちょっと手前であるがゆえに違いもあり、眼に見えるように存在できているといえるかと思います。
あと、あくびさんはモニタ上のイメージ=データと考えているようですが、俺はそうは思っていません。モニタ上のイメージもプリンタで出力されたものと同じように出力を経た結果です。光プリンタだと思えばいい。ただ、モニタで絵を見るのは経済的じゃないし、モニタの特性をまったく生かしきっていないのでつまらないと思っています。それだったらさっき言ったちょっと先から、もっと違った結果が導き出せるはずだと、そんな風に考えています。
あくび:
一方で低解像度の絵が作品になりえないというとそうでもない。
アドビのイラストレーターは印刷にしても解像度に左右されないのがすごいしセンスいいと思うんですけど、作場さんのデジタル作品のような異常な描き込みによるエネルギーみたいのがないのがおもしろくないなとも思うんです。
デジタルメディア特に静止画はどうなっていくのか、どう存在していくのか気になります。
サクバ:
イラストレーターはすでにベジェの解像度に左右されない利点を保ったままで異常な描き込みが出来る機能を備えています。実践している人も出てきていますね。 3Dに近い描き方になるので向き不向きはあるでしょうけど、ツールなんてどれもそんなものです。それに3Dも基本は同じ考え方なのでマッピングの技術がもっと進歩すればさらに強力な静止画ツールとして君臨する可能性だってあります。zbrushなんかはその予感もぷんぷんしてます。これも静止画ツールとして利用している人がいます。
しかしいずれにしても、あくびさんが低解像度の絵が作品になり得ないとは思っていないのと同じように、現状のツールでよい作品が作れないということはまったくないわけで、あとは今描きたい絵に向かっていけばそれでいいと思ってます。先のことを心配していても何も作れないですから。